Creatorshead

株式会社クリエイターズ・ヘッドのつぶやき

歩行者の行動をAIで予測

車の自動運転技術として大いに期待が持てそうな話題ですが、トヨタ自動車現代自動車というアジアを代表する自動車メーカーが出資する、AI(人工知能)のスタートアップ企業がボストンにあるパーセプティブ・オートマタだ。創業者兼CEOのシド・ミスラ氏は「我々のAIは、車載カメラの画像から歩行者の意図を理解できる」と語る。

パーセプティブ・オートマタは2018年10月9日、ベンチャーキャピタルの米ジャズ・ベンチャー・パートナーズなどから1,600万ドル(約18億円)の資金を調達したと発表した。2015年に米ハーバード大学の研究者グループが大学からスピンアウトして創業した同社は、これで通算2,000万ドルの資金を調達したことになる。

今回の資金調達には、トヨタシリコンバレーに設けるAI専門のコーポレート・ベンチャー・キャピタルである米トヨタAIベンチャーズ現代自動車、米ウーバーテクノロジーズの最初期に投資したことで知られるVCのファースト・ラウンド・キャピタルなども参加する。パーセプティブ・オートマタは、自動車業界の期待を集めるAIスタートアップの1社なのだ。

パーセプティブ・オートマタは自動運転車やADAS(先進運転支援システム)に搭載することを想定した、歩行者の意図(次の動作)を理解できるAIを開発している。

車載カメラがクルマの前方にいる歩行者や自転車を捉えると、AIがそれぞれ「道路を横切ろうとしているか否か」「クルマの存在に気づいているか否か」を瞬時に判断する。判定に要する時間は、数十ミリ秒と非常に短い。歩行者や自転車に危険が及びそうであれば、クルマを減速させたり停止させたりする指示を出す。

「歩行者が動いていなくても、道路を横切ろうとしているのかを判断できる」。ミスラCEOは同社のAIの特徴をそう語る。例えば、横断歩道でのシーン。歩行者が立ち止まってクルマを凝視していれば、AIは歩行者が横断歩道を渡ろうとしていると判断する。一方で、同じように交差点で立ち止まっている歩行者でも、クルマとは別の方向を見ていれば、渡る気はないと判断するわけだ。

では、歩行者の体は横断歩道の方に向かっているが、顔は歩行者の後ろの方を向いている場合はどうか。「AIはこの歩行者が、自分の後ろにいる同行者に『早く横断歩道を渡ろうよ』と呼びかけていると判断。同行者と一緒に横断歩道を渡ろうとしていると判定する」(ミスラCEO)。

それでは横断歩道がない道路の脇に立っている歩行者は道路を渡ろうとしているのか、それともタクシーを探しているのか。そうした微妙な違いも、同社のAIは見分けられるという。

ミスラCEOが「我々のAIの優れた能力を象徴する場面」と言って紹介したのが、車道の真ん中に荷物を抱えた人が立ち止まっているケースだ。「多くの自動運転車のAIは車道の真ん中に人がいたら、(パニックを起こして)急ブレーキをかける。しかし我々のAIは『この人は駐車中のトランクから荷物を取り出したばかりであり、別のクルマが自分に近づいて来ていることには気づいている。いきなり道路を横切ったりはしない』と判断。急ブレーキはかけず、徐行するようにクルマに指示を出す」。ミスラCEOはそう語る。

パーセプティブ・オートマタのAIは歩行者だけでなく、自転車に乗っている人の意図も理解できる。例えば、自転車に乗る人が出す「手信号」を同社のAIは理解できる。自転車が左折(右側通行の場合は道路を横切ることになる)を意味する手信号を出していたら、AIはその自転車がこれから道路を横切ると判断する。

パーセプティブ・オートマタはこうしたAIを、「教師あり」のディープラーニング(深層学習)を使って開発している。歩行者や自転車の動きを撮影した大量のビデオを人に見せて、そこに写る歩行者や自転車がどのような意図を持っているのかを、まずは人に判断してもらって「正解」を集める。こうして作成した情報を「教師データ」として用いてコンピューターに学習させることで、歩行者や自転車の意図を判断できる機械学習モデルを開発する。

ミスラCEOは「AI開発のポイントは教師データにある」と断言する。例えば、カメラが捉えた被写体が何なのかを識別する画像認識モデルを開発する場合、使用する教師データは非常に単純だ。人に大量の写真を見せ、その被写体が何かを答えてもらえばよい。それに対し、歩行者の意図まで理解できるAIを開発するには、歩行者の意図を表す「メタデータ」を付与する必要が出てくる。ミスラCEOは「そのようなメタデータは非常に複雑」と説明する。

実際にパーセプティブ・オートマタは、どのようにして教師データを作成しているのか。ミスラCEOは「行動科学や脳科学の実験で使われている質問術を応用している」と語る。

具体的には、歩行者や自転車の動画を見ている人に様々な質問を投げかける。そうして得られた答えを基に、ビデオに写る歩行者や自転車の意図を数値化していくのだ。

最も分かりやすい質問は「この歩行者はこれから道路を横切ると思うか?」というもの。だがそれ以外にも「様々な質問をしている」とミスラCEOは明かす。質問の詳細は公開していないが「行動科学や脳科学とコンピュータービジョンを融合したことが我々の強みだ」と、ミスラCEOは自信を示す。

AIの開発ではディープラーニングを採用している。同社の機械学習モデルの推論処理は、車載コンピューターで実行可能だという。歩行者や自転車の意図をリアルタイムで判断するには、推論を車載コンピューター内で完結させる必要がある。

パーセプティブ・オートマタは現在、自動車メーカーや「Tier 1」と呼ばれる大手自動車部品メーカーと連携し、自動運転車やADASに同社のAIを搭載するための検証を続けている。トヨタ現代自動車も出資はしているが、パーセプティブ・オートマタのAIを採用するかはまだ決めていない。

「現在の自動運転車は歩行者の意図を理解できない。そのため、後続車からすると思ってもみないタイミングで、自分の前を走る自動運転車が急停止することが考えられる。つまり、自動運転車が追突などの事故を誘発する恐れがある。そこで歩行者の意図を理解できるAIを搭載し、自動運転車が引き起こす事故を少しでも減らせるようにしたい」。ミスラCEOは、同社がAIの開発に力を入れる意義をそう強調する。